東京地方裁判所 昭和63年(ワ)3661号 判決 1988年12月22日
原告
東豊商事株式会社
被告
官田三都子
主文
一 被告は原告に対し、金五〇万八四七〇円及びこれに対する昭和六三年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金六九〇万円及びこれに対する昭和六三年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生(以下、次の事故を「本件事故」という。)
(一) 日時 昭和六三年一月一二日午後八時二〇分頃
(二) 場所 東京都大田区大森北四丁目一五番一七号先路上
(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(以下、「被告車」という。)
(四) 被害車両 小柳忠運転の普通乗用自動車(以下、「原告車」という。)
(五) 態様 被告車が後退進行して同車後部を駐車中の原告車前部に衝突させた。
2 責任原因
本件事故は被告が後方の注意を欠いたまま後退した過失により発生したものである。
3 損害
(一) 原告車は原告の所有であつたところ本件事故により破損した。
(二) 損害額
(1) 新車買換費用 六四〇万〇〇〇〇円
本件事故による原告車修理見積費は一六五万六七七〇円、修理後の評価損は一三〇万円を下らず、また修理に要する一か月間原告車のような自動車電話とテレビを設置した代車を借用するのは不可能であるので、原告は原告車を下取りしてもらい(その価額一一二〇万円)、新車を購入したものである(その価額本体一六八〇万円、登録費用八〇万円)。
(2) 代車料 五〇万〇〇〇〇円
一日五万円の一〇日分
よつて、原告は被告に対し、損害金合計六九〇万円及びこれに対する本件事故発生の後である昭和六三年四月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2及び3(一)は認める。同3(二)は否認する。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録を引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因3(損害)のうち、(一)の事実は当事者間に争いがないので、(二)について判断する。
1 成立に争いのない乙第一号証、原告代表者豊川敏雄本人尋問の結果並びに右尋問結果により原告車の本件事故直後の写真であると認められる乙第二号証の一ないし六及び真正に成立したものと認められる甲第三号証によれば、原告車は本件事故により右前照灯から右前部フエンダーがやや持ち上がる損傷を受けたこと、そのため右前照灯及び右前照灯ワイパーの交換、前部フエンダーをもとに戻す作業、右前照灯カバーと右前部フエンダーの塗装、右各修理に伴う関係部分の脱着の修理が必要となつたこと、右修理の費用は二五万八四七〇円で、修理にかかる日数は一〇日程度であること、原告車は原告が昭和六二年五月一八日に附属品等とあわせて一五〇〇万円で購入した新車(メルセデスベンツ)であり、原告が営業のため毎日使用していたこと、が認められる。
これに対し甲第二号証の見積書では修理代が一六五万六七七〇円とされ、車両の全面塗装及びこれに伴う部品の脱着等の費用が含まれている。しかし、前記認定したところによれば、原告車の損傷箇所は右前部の限られた部分だけであり、本件事故による原告車の修理として全面塗装が必要とは認められないから、右書証は採用することができない。他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、原告が被告に対して請求できる損害額は次のとおりとなる。
(一) 修理費用 二五万八四七〇円
修理費用は前記のとおり二五万八四七〇円と認められる。
(二) 修理によつても原状に回復しないことによる損害 五万〇〇〇〇円
右修理によれば、右前照灯は交換によつて原状が完全に回復されるけれども、右前部フエンダーは若干強度が低下したことが考えられ、また新たに塗装する部分はそれ以外の部分との色の差異がわずかに生じることから、修理によつても原状が完全に回復されていないことになる。しかしながら、右原状回復がされない部分が自動車の本質的構造部分ではなく、右前部フエンダーの損傷はさほど大きなものではなく、塗装の点は主として美観の問題にとどまるものであつて、原告車の価格、原告車が新車として購入されてから八か月弱であること等を考慮しても、原告車が前記修理によって原状に回復しないことによる損害は、五万円をこえるものではないと認められる。
(三) 代車費用 二〇万〇〇〇〇円
原告は前記のとおり原告車を毎日使用していたところ、修理のため一〇日程度を使用できなくなるから、代車費用として被告に対して請求できるのは、原告車のグレードを考慮すると、一日あたり二万円の一〇日分である二〇万円が相当と認める。
3 なお、原告は、新車買換費用を請求するけれども、原告車は修理可能でかつ修理費用は原告車の時価に比べて低額であることは明かであり、買換費用を請求することはできないから、原告の右主張は理由がない。
三 結論
よつて、原告の請求は、損害金五〇万八四七〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六三年四月二一日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中西茂)